予測とパターン認識
状態空間モデルとノンパラメトリックなアプローチとの大きな違いは、前者は将来の予測値を算出できることだろう。一般的なテクニカル分析が将来の予測値を算出することができないのは、アプローチとして内部の状態が法則性を持っていると仮定していないことによる。そのため、通常のテクニカル分析では予測に関する機能は人間の判断(パターン認識)にゆだねられている。一方で、単純な時系列モデル(AR(1)やMA(1)など)では、ほとんど意味のある予測値というものを算出しないので、現実的な価格予測では通常の計量経済学の範囲を超える数のパラメータ設定というものが必要になると考えられる。その1でAR(25)モデルと冗談めかして書いたが、そういったモデルも扱う必要があるのかもしれない。
ノンパラメトリックなアプローチでは、予測ができないと書いたが過去のパターンが繰り返し現れると仮定するならば、過去の類似のデータの動きを探索することで、現在時点の類似の状況のものがあれば、その時の挙動をつなぎ合わせることで予測をすることができる可能性もある。類似したデータを探索する手法は数学的な手法を用いたパターン認識であり、画像や音声、テキストデータに適用される。為替市場は数値データなので、数値データに関するパターン認識ということになるだろう。この辺りは、ベイズ統計学や人工知能の領域になるかもしれないが、人間によるパターン認識に代わるアルゴリズムが開発できるかというチャレンジになるだろう。
周期性とフーリエ解析
市場データを扱う時系列モデルは相当複雑なものになると書いたが、もう一つの手法として周期的な挙動を三角関数の合成で表すような手法も考えられる。こういった分析はフーリエ解析やスペクトル解析といわれる。実をいうと、ARモデルなどの時系列モデルとフーリエ解析は類似性があり、多数のパラメータによる時系列解析という点ではフーリエ解析の方が取り扱いがしやすいかもしれない。ただ、フーリエ解析はシグナル(法則性がある動き)と比較してノイズが大きい場合、ほとんど意味のある結果を算出しないという意味で金融では取り扱いづらい部分もあるかもしれないが、これについても一応の検証は考えたいところではある。
分位点(Quantile)と抵抗帯
確率分布で一定の確率(95%や99%など)でサンプリング値がその区間に含まれる領域を定義する境界値のことを分位点(Quantile)という。例えば、ボリンジャーバンドの2σなどは大体97.5%の確率でそれ以下の値に価格が収まるという意味で分位点を表している。テクニカル分析ではこの分位点というものを支持線、あるいは、抵抗線とみる場合が多いと考えられる。チャーチストは価格の動きの異なる時点のピーク値(高値や安値)を直線でつないで線(トレンドライン)を引き、それを支持線/抵抗線と考えるが、これも実をいうとこの分位点を推定しているものと考えることができる。将来の価格の予測という意味では期待値が重要であるが、テクニカル分析はそれだけでは完結していないと考えられ、期待値と分位点の関係性も考慮に入れる必要があるのかもしれない。
アノマリー
価格の動きではない情報に基づいた価格の動きの統計的な特性のことをアノマリーという。古典的には、曜日や何月であるかによる平均値の違いに注目した分析があり、カレンダーアノマリーといわれる。”Sell in May(5月に売れ)”といったものが典型的なものだろう。こういった分析も基本的にはパターン認識に属するものであり、FXであれば、重要な経済指標の発表前後などに特徴的な挙動が観測される可能性あるかもしれない。経済活動は基本的に1年周期であるため、1年の中で特徴的な挙動があれば、時系列モデルに組み込むと良いだろう。
まとめ
上記の考察から今後の研究の対象となるのは以下のような領域であると考えられる。
- 状態空間モデル、及び、それを利用したフィルタリング、予測の手法
- パターン認識とその予測手法への適用
- 分位点の推定とそれを用いた抵抗帯による価格変動の予測
かなり広範囲な領域になるが、なるべく平易な形で説明できるようにしたい。