南アフリカ共和国

白いアフリカ人と黒人

 アフリカ人といえば通常黒人や褐色肌を想像するだろうが、南アフリカ共和国における経済活動の中心は全体の1割程度にすぎないイギリス系白人、及び、アフリカーナー(白いアフリカ人)といわれる18世紀当たりに移住してきたオランダ人を中心とするヨーロッパ系移民を祖先に持つアフリカ人である。アパルトヘイトといわれる黒人差別の制度が1990年代まであったことはよく知られているだろう。制度自体は廃止されたものの依然として黒人差別が残る国だろうと推測される。

 民主的な選挙が行われるようになった結果、黒人が政権を担うようになったのになぜ?となるかもしれない。政治とは少数の利害集団が多数の被支配者を支配することであり、その逆はありえない。支配者階級である、もしくは、白人からお仲間であると認められた黒人の人たちにとって、支配すべき敵は同じ黒人であり、白人はそのためのパートナーであり利害を守らなければならない相手であるということだろう。もしくは、白人支配の構図はそもそも変わっていないのかもしれない。形式的に「白人が黒人を差別する国」から「黒人が黒人を差別する国」になったというのが現実だろう、というのが筆者の推測するところである。

 南アフリカ共和国の通貨であるZARは個人投資家が為替市場で取引できる唯一のアフリカの通貨であり、おそらく今後もそうだろうと予想される。というと、何となく南アフリカ共和国はアフリカにおける唯一の経済大国、将来の先進国なのだろうと思うかもしれないが、経済的な豊かさという点ではアフリカの国の中ではマシな方ではあるものの、それほど豊かな国であるとは思われない。失業率は30%を超え、1人当たりのGDPは5000ドル程度であり、これはアフリカの国の中で1番高いというわけでもない。失業者のうち一定率は犯罪で生計を立てている(犯罪者も組織化されている思われるが。)と考えられ、ヨハネスブルグなどいくつかの都市は”リアル北斗の拳”として知られる、ヒャッハーな国でもある。

アフリカの経済規模と通貨

 アフリカ大陸は土地こそ広大であるが、その多くは森林・砂漠地帯であり、経済活動自体は活発ではない。2020年時点では、アフリカ大陸全体のGDPは約2.6兆ドル(290兆円)程度と推定されており、先進国1国分程度である。また、そのうちのかなりの部分は資源の採掘・輸出であり、一般的な家計や労働者の多くは貧困であろうと推測される。上位の5国のGDPを並べると以下のとおりである。(上位5国でアフリカ大陸全体の約60%を占める。)

GDP(10億ドル)人口(百万人)1人当たりGDP(ドル)
ナイジェリア514211.42431
エジプト394102.93832
南アフリカ共和国33060.55442
アルジェリア15145.03364
モロッコ12436.33415
2020年。国際通貨基金(IMF)のWorld Economic Outlookから作成。

 ナイジェリア(NGN)、エジプト(EGP)、モロッコ(MAD)はいずれも管理相場制度(ナイジェリアは建前は変動相場制だが実質的には管理相場制度と思われる。)であり、基本的に為替レートは各国の中央銀行が決定している。アルジェリア(DZD)は外国への送金に中央銀行の許可が必要であるため、国際市場に流通している通貨の量が少ない通貨と考えられる。そのため、比較的自由に取引できる通貨はZARぐらいしかないというのが、最初に述べた予想の根拠である。ちなみに、リーマンショック以前は南アフリカ共和国が第1位だったが、それ以降経済が低調であり、ナイジェリア、エジプトに抜かれて現在は第3位ということである。

ZARと鉱物資源

 南アフリカ共和国の経済で重要な産業は鉱業である。金、プラチナ、クロムなどの鉱物資源で世界第1位の産出国になっている。マンガンやチタン、他のレアメタルでも上位の産出国となっており、鉱業関連の産業でGDPの約15%を占めるといわれている。外国から見た場合、南アフリカ共和国と関係が深いのは自動車産業であろう。プラチナ、クロム、マンガンなどは自動車製造で欠かせない素材であり、プラチナの産出シェアは南アフリカ共和国が圧倒的であるため、自動車産業の人たちは嫌でも注目しなければならない国であろうと思われる。

 そのため、南アフリカ共和国はプラチナに関して価格支配力をある程度持っていると考えられる。採掘や精錬にかかるコストはZAR建てであると考えられるため、ZARとプラチナの市場価格には一定の連動性があると考えられる。実際のヒストリカルデータで比較すると以下のとおりである。(プラチナ価格はLBMA(London Bullion Market Association, ロンドン貴金属市場協会)、為替レートはBISのデータから加工して算出している。)

リーマンショック以降はほぼ連動していることがわかる。プラチナは貴金属であるため、投機的な取引の対象になり得るから必ずしも一致はしないだろうが、ZARの市場価格はプラチナに近いリターンをもたらすものと考えられる。逆をいえば、プラチナを手掛ける投資家やトレーダーは南アフリカ共和国の経済動向を気にかける必要があるということである。ZARはインフレ率が高い通貨であるため、プラチナの価格に強気になりづらい状況はあるかもしれない。

 金利平価説のところでも述べたが、資源国通貨、高金利通貨としては代表的な通貨であり、ここ10年程度見てもキャリートレードでリターンが出ている通貨である。今後も同様の結果が見込めるかは不明であるが、キャリートレードを考えるのであれば注目しておいた方がいい通貨であることは間違いないだろう。

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