ディスカウントファクター
ありきたりな説明ではあるけど、今日100万円もらえるのと10年後に100万円もらえるのとでどちらの方がうれしいだろうか。奇特な人を除けば今日の方がいいだろう。では、今日30万円もらえるのと10年後の100万円もらえるのとではどうだろうか。年利15%のカードローンや消費者金融を使う人は今日の30万円を選ぶ人であると考えられるが、まあ、冷静に物事を考える人なら10年後の100万円を選ぶかもしれない。このような操作を繰り返していくと、どっちでもよくね?といえる金額というものが存在するだろう。経済学でいうところの均衡というやつであり、数理経済学ではこの均衡価格が存在するということを不動点定理(1次元では中間値の定理)という怪しげな定理を使って証明するが、まあ存在するものとしよう。
例えば、それが今日の80万円と10年後の100万円だった場合、この金額の比率をディスカウントファクター(DF:Discount Factor)という。この場合は10年のディスカウントファクターが0.8ということになる。将来に受け取ることができる金額を将来価値(FV:Future Value)、現在に受け取ることができる金額を現在価値(PV:Present Value)というが、ディスカウントファクターはこの現在価値と将来価値の比として定義することができる。
金利の表現形式
上記の例は、今日80万円投資して10年後に100万円受け取る取引を公平な取引と考えている、とみることもできる。10年で20/80=25%の利回りを得ているから、年利2.5%ということが言えそうである。具体的に計算してみると$$\small S = \frac{\frac{FV-PV}{PV}}{T}= \frac{\frac{1}{DF}-1}{T}= \frac{1.25-1}{10} = 2.5\% $$である。ここで、\(\small T \)は投資期間を表す。このような金利の表現形式\(\small S \)を単利(Simple Yield)という。計算方法からわかるように金利を受け取ってもそれを再投資しない形式の金利である。DFとの関係を式で表すと$$\small DF = \frac{1}{1+ S T} $$である。
現実には受け取った利息を再投資することができるかもしれない。この再投資を考える金利のことを複利(Compound Yield)という。例えば、年2.5%の利息を受け取ることができて、それを再投資することができると仮定すると毎年の利息収入は2万円、82万円×0.025=2.05万円、84.05万円×0.025=2.10125万円・・・となる。計算式で表すと$$\small FV = PV (1+C)^T $$ DFとの関係を式で表すと$$\small DF = (1+C)^{-T}$$であり、10年間これを繰り返すと102.4068万円になる。再投資があるため100万円とずれてしまう。これが100万円と一致する複利Cを求めると\(\small \sqrt[10]{1.25} – 1 = 2.2565\% \)となる。一般に、複利は単利より低い数値になることがわかる。
再投資の回数を年1回としたが、この回数は任意に指定ができて、例えば半年に1回(年2回)にすれば $$\small FV = PV \left(1+\frac{C}{2}\right)^{2T}$$DFとの関係を式で表すと$$\small DF = \left(1+\frac{C}{2}\right)^{-2T}$$であり、上記の例だと \(\small 2\left(\sqrt[20]{1.25} – 1\right) = 2.2439\% \)となる。一般化して、年\(\small n \)回とすると、$$\small DF = \left(1+\frac{C}{n}\right)^{-nT}$$と表すことができる。現実には不可能であるが、この再投資の回数を無限回にしたときの金利を\(\small r \)とおいて、指数関数の定義を思い出してもらえば、$$\small DF=\small \lim_{n \rightarrow \infty} \left(1+\frac{r}{n}\right)^{-nT} = \exp(-rT) $$と計算できる。上記の例では、\(\small r=-\frac{\ln 0.8}{10} = 2.2314\% \) となる。このような金利の表現形式は連続複利(Continuous Compound Yield)という。
何やら小難しい話を始めてしまったように見えるが、金利というものを扱う上では基本的な概念である。1年以下の短い期間の金利では単利、国債など長期の金利を扱う場合は複利を用いることが多い。経済学や金融工学で理論的な議論をする場合は連続複利を用いる。金利データを集めて為替相場の分析をしようと考えた場合に、そもそもそのデータが何を意味しているのかを理解したり、無数に存在する金利データのうち、ほしいデータがどれなのかを判断することができるようになるために必要となることなので、覚えてしまってほしい。