購買力平価説(その3)

エマージング通貨の購買力平価と市場為替レート

 主要通貨に関しては購買力平価と市場の為替レートについて、一定の乖離は当然あるもののある程度の関係性があることがわかった。では、エマージング通貨ではどうなるかということをみていこう。例として、ZAR(南アフリカランド)とMXN(メキシコペソ)を見てみよう。

トレンドの方向性は似たような動きをしているが、為替レートの水準自体は全く合っていない。よく考えればわかるが、購買力平価説が成り立つということはどこの国に行っても、大抵の物やサービスの値段が変わらないことを意味する。先進国から発展途上国に旅行に行くと大抵のものがかなり安いのが普通であり、その国の経済の発展度合いに応じて市場の為替レートと購買力平価というのは乖離してしまう傾向があることがわかる。”それみたことか、やはり購買力平価説には限界がある”、”OECDのアナリストの人たちにも鉛筆をなめて計算することに良心の呵責があったか”、と思いたくなるかもしれない。

 しかし、似たような傾向で動いているということは何らかの関係性は見いだせるかもしれない。単純な方法として考えられるのは、市場の為替レートは購買力平価の何倍ぐらいの水準なのかということである。すなわち、$$\small X_{Market} = \beta X_{PPP}$$と置いて、\(\small \beta\)を推定し、その値が安定的であるならば購買力平価から市場の為替レートがどの程度であるべきかの目安にできるだろう。この\(\small \beta\)をどのように推定するかという方法であるが、観測データ(ヒストリカルデータ)を用いて2つの変数の関係性を推定する統計的学的手法として回帰分析(別の投稿で説明する。)という手法があって、それを適用して求めればよい。実際に1980/01/01~2021/06/30のデータに回帰分析を適用して、ZARとMXNの\(\small \beta\)を計算すると、$$\small \beta_{ZAR} = 2.12, \quad \beta_{MXN} = 1.82$$となる。データの期間で値が異なってしまうので、どちらも2倍程度とみてよいだろう。実際に購買力平価の2倍をグラフに追加すると以下のようになる。

やはり、ある程度は購買力平価を考慮して市場の為替レートが動いていることが見て取れるだろう。なるほど、これらの国は市場では二流国家扱いされ・・ゲホッゲホッ、といった感じで大体2倍ぐらいの水準にいることがわかる。ちなみに、1倍で購買力平価が成り立つべきと考える方法は絶対的購買力平価(Absolute PPP)といい、上記のように一定の比率で成り立つべきと考える方法は相対的購買力平価(Relative PPP)といわれる考え方に対応している。

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