購買力平価説(その1)

為替レートの決定要因

国際金融論で扱われる為替レートの決定要因を列挙すると

  • 国際収支(国際貿易取引)
  • 購買力平価(物価水準、通貨間のインフレ率の差)
  • 金利平価(通貨間の金利差)
  • 貨幣市場(政策金利や貨幣供給量)
  • 資産市場(株価や債券市場の利回り、コモディティ価格)

である。国際金融論固有というわけではなく、一般的にも考えられる要因は取引する人たちの行動特性や期待(市場心理)、政治的な要因などを除けば上記のものでほぼすべてだろう。雇用統計や各種マクロ経済指標なども含まれるかもしれないが、間接的に金融政策や金利、資産価格の動向を予測して市場価格に反映していると考えられ、上記の中に含まれていると考えてよいだろう。国際金融論(国際マクロ経済学)では、国際収支と貨幣供給量を重視する傾向があり、マンデルフレミングモデルが有名な理論だろう。金融工学では、金利平価説を用いるのが通例であり、通貨間の金利差を為替レートのドリフトとして用いてモデルを構築するのが一般的である。一般向けのファンダメンタル分析では政策金利や株価、コモディティ価格との関連を取り扱うのが好まれる印象があるが、経済指標(特にアメリカの雇用統計)発表時のお祭り騒ぎ感が強く、特に定番の理論というものはないように見える。

購買力平価説

 ここで、取り扱うのは購買力平価説(Purchasing Power Parity, PPP)である。これは各通貨で同じ財(のバスケット)を購入する場合に必要となる金額を計算して、その比率で為替レートが決定すると考える方法である。なぜか国際金融論でも一般向けのファンダメンタル分析においても人気がなく、”ああ、あれね”的な冷ややかな視線を送られ、長期では成り立つかもしれないが現実の為替レートの変動を説明することはできない、エマージング通貨では全く成り立たない、というお決まりの評価がされる仮説である。理論的には小学生でもわかるほど簡単なものであり、そんな簡単な方法で為替レートがわかったら苦労しねえし経済理論なんていらねえよ、という気分になってしまうのかもしれない。

 しかし、実をいうと為替レートの絶対水準がいくらになるべきかを決定できる要因は上記の中では、国際収支と購買力平価しかないことに注意しなければならない。よく考えればわかるが、金利や資産価格、金融政策は為替レートの時間の経過に伴う相対的な変動しか説明できない。例えば、USDとJPYの金利差が1%であるからUSD/JPYは1ドル何円でなければならない、などという分析は全くできないのである。加えて、国際収支が均衡すべきと信じる根拠はないに等しい(これについては別の投稿で詳細に分析するつもりである。)と考えられるため、実質的に購買力平価以外に為替レートの絶対的な水準を説明し得る理論は存在しないようにみえる。

 結局、短期的な為替レートの変動は説明できない、エマージング通貨では成り立たない、とはいっても購買力平価を見ないことには為替レートの水準に関する相場観というのは形成しえないものと考えられる。これがないと、近い将来に1ドル50円になるとか逆に1ドル200円になるといった無理のある主張を信じてしまったりするかもしれない。短期的なトレーディングではレートの水準自体にそれほどの重要性はないが、トレンドが購買力平価から離れるものであるのか、回帰するものであるのかを意識しておくことは相応に意味があることであろうし、購買力平価のトレンド(通貨間のインフレ率のスプレッド)が為替レートの進む大きな方向性と異なるということもあまりないため、為替レートのトレンドを予測する上でも有用であろうと考えられる。

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