ヘッジ取引とつなぎ取引
持っているポジションのリスクを他の金融商品を使って軽減する取引のことをヘッジ取引という。ピンポイントで特定の取引のリスクをヘッジする取引を個別ヘッジ(Micro Hedge)、ポジション全体のリスクをまとめてヘッジする取引を包括ヘッジ(Macro Hedge)という。例えば、金融機関において、顧客と取引した特定の取引と反対の同じ取引をインターバンクで行うことでリスクをヘッジするのが個別ヘッジ取引(カバー取引ともいわれる。)であり、個別株のポートフォリオの株価変動リスクを株価指数先物でヘッジするような取引がマクロヘッジ取引である。前者は特定の取引に紐づくヘッジ取引であるのに対して、後者はポートフォリオの対するヘッジでありかなり緩めなヘッジ取引であるといえる。銀行や証券会社のディーラーといわれる人たちにとっては日々の業務あろうし、重要なオペレーションなのだろうと推測される。
個人投資家がFX取引をする場合も同様のオペレーションをすることができる(そのような取引はつなぎ取引といわれており、金融機関のヘッジ取引とは区別されるべきものだろう。)が、そもそもそのような取引に意味があるのか、というのが主旨である。要するに、ポジションのリスクを軽減したいのであればそのポジションを清算してしまえばよいのではないか、あえて反対の売買やヘッジ取引をする意味なんてあるのか、ということである。結論を言ってしまうと、経済的な意味はないと考えられる。ヘッジとか言ってごまかしてないでさっさと損切しろというわけだ。あえて言うならば、先物取引やオプション取引を個人で行う投資家であれば、それらを合成して特定のペイオフを作る場合などはヘッジ取引という考えもあるかもしれないが、ほとんどの個人投資家には関係のない話のように見える。
金融機関におけるヘッジ取引
そもそも銀行や証券会社のディーラーはなぜヘッジ取引をしなければならないのかということであるが、金融機関は基本的に金融取引では受け身であり、オプション取引を買っている場合などを除いて自分から顧客の取引を解約・清算することなどできないという事情がある。そのため、顧客とした取引のリスクをヘッジしたいと思ったら別の取引をインターバンクでしなければならないのである。また、投資ファンドやヘッジファンドが個別株のポートフォリオの株価変動リスクを株価指数先物でヘッジするのは、持っている個別株のポートフォリオが市場の流動性と比較して大きいためで、市場で売却する、あるいは、状況が変わって買いなおすということが容易にできないために先物でヘッジするという事情があるのだろう。いずれの事情も個人投資家には存在しないものと考えられる。
とりわけ誤解が多いのはオプション取引に関するものだろう。銀行や証券会社のディーラーがオプション取引のリスクをヘッジするのに、反対のポジションに相当する原資産を売買することをデルタヘッジ(Delta Hedge)というが、そういった戦略が何か利益を生み出す取引であると考えてしまう人がいるかもしれない。現実は、顧客とのオプション取引から多額の手数料を取っており、そのリスクをコストが低い原資産の取引でリスクヘッジすることで、安全に手数料を得ようとする取引であり、手数料を取られる側である個人投資家には意味のある戦略ではない。もちろん、オプションを売ってデルタヘッジして、オプションの時間的価値の減衰から利益を得ようという戦略はあるが、本質的にはプットオプションとコールオプションの両建て売りと変わらないため、個人投資家がデルタヘッジ戦略をとるということに意味を見出すのは難しいように思えるのである。
心理的効果?
なんとなくヘッジという響きがかっこよく感じるので使いたくなるが、個人投資家のリスク管理はヘッジではなくポジションやレバレッジの管理が基本になるのだろう。つなぎ取引には経済的な効果や意味はないといったものの、トレーダーの人たちにとっては心理的な効果があるのかもしれない。ポジションがゼロであるということとニュートラルであるということが心理的には必ずしも一致するものではないし、そういった効果や影響は否定することができない。ただ、それは個人の性格や考え方によるものであろうと思われるため、このブログでは特に取り扱うことはしない。