定義
政府や中央銀行が保有する外貨のことを外貨準備(Foreign Reserve)という。主に為替介入の目的で保有する準備金、あるいは、為替介入の結果保有している外貨であるとされている。変動為替相場の下では、政府や中央銀行は外貨の交換に応じる必要がないため、外貨での借入や為替介入をしないならば不要なものであると考えられる。しかし、このような建前だけで考えると、どうにも各国(特に、中国や日本などの輸出超過の国)が保有する外貨準備というのは巨額すぎるように見えるのである。
原因として考えられるのは、輸出企業が獲得した外貨を邦貨に換金する際の(もちろん、間に銀行などの金融機関を挟むが)最終的な相手先が自国の政府や中央銀行である場合だろう。例えば、日本の輸出企業が米ドルを円に換金したい場合、円を売って米ドルを買いたい経済主体を探す必要がある。しかし、現実の外国為替市場では、大量の円を保有していてそれを定期的に売りたいと考えている輸入企業や外国の輸出企業の換金需要は日本の輸出企業の換金需要と比較すると相対的に小さいものであると考えられる(輸出超過であるため)。
結局、いくらでも売るための円を作り出せる経済主体である日本国政府や日本銀行がその外貨を買い取るというのが最も容易な換金方法であると考えられる。その結果として積み上がっているのが外貨準備高ということになるのかもしれない。そのため、外貨準備高を国が稼いだ外貨という視点で見られる場合があるが、それはあながち間違いであるとは言えない部分もあると考えられる。
国際貿易で利用される通貨
実をいうと輸出超過であるからといって、外貨を獲得できるとは限らない。自国通貨建てで輸出取引を行う場合、獲得できるのは自国通貨であり、特に外貨が獲得されるわけではないためである。そのため、外貨準備高が積み上がる国の企業は自国通貨建てよりも外国通貨建てで国際貿易を行う傾向があるということが言えるかもしれない。
このような傾向を持つ企業は加工貿易型の産業であることが多く、外国から輸入したものを加工して外国に輸出する企業であり、この場合いずれの取引も外貨建てで行うことで為替リスクを軽減することができるのだろう。もう一つ重要な点として、輸入超過の国(アメリカやイギリス、EUのいくつかの国)は自国通貨建てで国際貿易を行うことを好む傾向があるかもしれない。外貨で国際貿易を行うと継続的に外貨の資金調達が必要となるため、為替の変動リスクを負うことになるからである。加えて、小国も同様に自国通貨建ての取引を好むかもしれない。外貨を獲得して政府や中央銀行が外貨準備をため込む経済的な余裕などないと考えられるからである。
まとめると、
- 輸入超過の経済大国 ー 自国通貨建てを選好
- 輸出超過の経済大国 ー 外国通貨建て取引を受け入れる(特に選好しているわけではないかもしれない)
- 経済小国 ー 自国通貨建てを選好
となる。EU圏の国が多少のデメリットがあってもEURのような国際的に強い通貨を持ちたがるのは、このような理由によるものかもしれない。
日本の総合商社のような形態がアメリカやイギリスにはない独特の事業形態といわれるのは、国際貿易取引を外貨建てで行う都合上、リスクを吸収できるだけの大きな資本を持つ必要があるためと考えられる。主に自国通貨建てで国際貿易を行う場合は巨大な資本は必要がない(顧客が国内だろうが外国だろうが変わらない)ため、アメリカやイギリスの貿易会社は小ぶりなプライベートカンパニーが多いというのも、この辺りに理由があるのかもしれない。
自国通貨に換金する理由
加工貿易や中継貿易を行っている企業であれば、基本的な事業活動は外貨で行われるだろうから、わざわざ邦貨に換金する必要はないと考えるかもしれない。現実には、従業員の給料や税金、株主への配当金のために邦貨に換金しなければならない。また、企業の業績というのはホームカントリーの通貨で報告・評価される傾向があるため、邦貨建てで見た場合の為替リスクはヘッジしたいというインセンティブを持つのかもしれない。
もう一つの理由は企業と政府(国家)というものは、世の中で謳われるほど独立した存在ではないのかもしれない。政府の指導の下で事業活動を行っている民間企業は政府(国家)の代理人としての性質を持つ。企業の業績がホームカントリーの通貨で報告・評価されるのは、その国の企業でありその国の尺度で評価されるべきという考え方に起因するのかもしれない。こういった傾向は必ずしも日本固有とは言えず、アメリカもしばしば”株式会社アメリカ”と揶揄されるような連携を企業間で示すことがあるらしい。いずれにせよ、大抵の企業にはホームカントリーがあり、その国の通貨に換金するインセンティブが存在するようである。
国際貿易と為替レート
長々と外貨準備について説明を続けてきたが、最終的に言いたいことは輸入超過や輸出超過が為替レートにどの程度影響を及ぼすかというところで、外貨準備のような仕組みがあると国際貿易に伴う外国為替の実需の影響というのはかなりの程度で吸収されてしまい、現実には国際貿易が為替レートに及ぼす影響というものは限定されたものでしかないのではないか、ということである。このような仕組みがあるために、経済大国に関しては輸入超過が継続しても外貨の借金が増え続けるということもないし、輸出超過が継続しても外貨の処分に困るということもない。そのため、国際収支というものは長期的にみて均衡しなければならないと考える理由もない、ということになる。
いずれ国際収支について詳しく説明を書こうと思うが、筆者の基本的なスタンスとして国際貿易が為替レートに大きな影響を及ぼす可能性は低いと考えている。しいて言うならば、国際貿易があるために長期的には購買力平価説が一定の説得力を持つと考えることができる、という程度に見ればよいのではないかと考えている。