概要
流動性の高い通貨ペアというのは大体限られており、任意の通貨ペアの価格データというのはそれらの合成から推定することになる。流動性が低かったり、取引自体がない通貨ペアの価格データなど必要なのかという疑問も生じるが、チャート等で比較したい場合もないわけではないだろう。すべての通貨の価格は相対的なものに過ぎないのであるから、ざっと眺めてすべての通貨に対して買いだと判断する通貨が最も強い通貨だろうし、逆もまた然り、といった判断に用いることができる。チャートの表示や計量モデルでの評価が容易となるように任意の通貨ペアについて価格データを推定しておいた方が一応便利だろう。
価格データの取得元によって流動性が高い通貨ペア異なるだろうから、日本の金融機関や情報ベンダーが発表するデータであれば対JPYを利用した方が良いだろうし、米国のなら対USD、欧州ならば対EURのものを使った方がよいと考えられる。
始値と引値
始値と引値は元となる通貨ペアの 始値どうし、引値どうしの掛け算、もしくは、割り算で推定できる。\(\small X(CCYPair) \)が為替レートを表すとする。例えば、対JPYならば$$\small \frac{X(AAA/JPY)}{X(BBB/JPY)} = X(AAA/BBB) $$ で計算することができる。対USDで掛け算になるのは例えば$$ \small X(AUD/USD) X(USD/ZAR) = X(AUD/ZAR) $$のような場合だろう。
高値と安値
始値、引値と異なり高値、安値は大体の推定値しか求めることができない。高値や安値を付けるタイミングが一致するとは限らないためである。OHLCで始値、高値、安値、引値を表すとクロスレートの高値、安値は$$ \small \max\left\{\frac{O(AAA/JPY)}{O(BBB/JPY)}, \frac{C(AAA/JPY)}{C(BBB/JPY)}\right\} \leq H(AAA/BBB) \leq \frac{H(AAA/JPY)}{L(BBB/JPY)} \\ \small \min\left\{\frac{O(AAA/JPY)}{O(BBB/JPY)}, \frac{C(AAA/JPY)}{C(BBB/JPY)}\right\} \geq L(AAA/BBB) \geq \frac{L(AAA/JPY)}{H(BBB/JPY)} $$という制約条件を満たすと考えられる(掛け算の場合は右の式は高値どうし、安値どうしの掛け算になる。)。そのため、左の式の値を\(\small H_a,L_a \)、右の式の値を\(\small H_b,L_b \)とおいて、何らかの係数\(\small \beta \)を用いて線形結合で表せば、$$ \small H(AAA/BBB) = H_a(1-\beta) + \beta H_b \\ \small L(AAA/BBB) = L_a(1-\beta) + \beta L_b $$と表すことができる。
係数\(\small \beta \)をどう定めるかが問題になるが、極端なケースとして2つの通貨が完全に逆相関している(相関係数が-1)場合、 \(\small \beta = 1 \)でなければならないと考えられる。また、よりボラティリティが大きい通貨の方がこの係数に影響を持つと考えられる。したがって、一つのもっともらしい係数は実際の2つの通貨ペアの合成で計算したクロスレートの共分散の値と2つの通貨ペアの相関が-1であった場合の共分散の比をとることであると考えられる。すなわち、$$ \small \beta = \frac{ \sigma^2_{AAA/JPY} + \sigma^2_{BBB/JPY} – 2 \rho \sigma_{AAA/JPY} \sigma_{BBB/JPY} }{\sigma^2_{AAA/JPY} + \sigma^2_{BBB/JPY}+2 \sigma_{AAA/JPY} \sigma_{BBB/JPY} } $$と計算すればよいと考えられる(掛け算の場合は分子の第3項目の符号を+にすればよい。)。この値は\( \small 0 \leq \beta \leq 1 \)を満たす。
適用するボラティリティ、相関係数は実際のデータから推定できる値を適用すればよい。このようなボラティリティや相関係数はヒストリカルボラティリティ(Historical Volatility)、ヒストリカルコリレーション(Historical Correlation)といわれる。この際、推定する値は時系列データそのものの標準偏差や相関係数ではなく、変化率の標準偏差や相関係数であることに注意する。具体的には、時系列データが\(\small x_1, x_2, \cdots, x_n \)で表される場合、ボラティリティは\(\small r_i = \frac{x_i}{x_{i-1}}-1 \)、及び、\(\small r_i \)の平均値を\( \small \bar{r} \)とおくと、$$ \small \sigma = \sqrt{\frac{1}{n-2} \sum_{i=2}^n (r_i -\bar{r})^2} $$と計算できる。ここで、\(\small r_i \)は \(\small r_i = \ln{x_i}-\ln{x_{i-1}} \)と計算してもよい。同様に、ヒストリカルコリレーションは2つの時系列データの収益率を\( \small r_i^{(x)}, r_i^{(y)} \)、ボラティリティを\(\small \sigma_x,\sigma_y \)と表せば、$$ \small \rho = \frac{1}{\sigma_x \sigma_y} \left(\frac{1}{n-2} \sum_{i=2}^n (r_i^{(x)} -\bar{r} ^{(x)} ) (r_i^{(y)} -\bar{r} ^{(y)} ) \right) $$と計算できる。 もちろん、このように計算した高値、安値は実態に一致しないだろうが、無いよりまし程度の気休めの数値は計算してくれるだろう。
スワップポイント
スワップポイントのデータはヒストリカルデータを入手できることがあまりない。例外的なのは東京金融取引所(TFX)で外国為替証拠金取引(くりっく365)のスワップポイントを開示している。テクニカル分析では登場しないが計量モデルで利用する可能性もあるので、一応推定方法を示しておく。\(\small X(CCYPair) \)がスポット為替レート、\(\small S(CCYPair) \)がスワップポイント、\(\small F(CCYPair) \)がフォワード為替レートを表すとすると、$$ \small F(AAA/JPY) = X(AAA/JPY) + S(AAA/JPY) \\ \small F(BBB/JPY) = X(BBB/JPY) + S(BBB/JPY) $$であるから、クロスレートのフォワード為替レートを計算すると $$ \small F(AAA/BBB) = \frac{F(AAA/JPY)}{F(BBB/JPY)} $$したがって、 $$ \small S(AAA/BBB) = F(AAA/BBB)-\frac{X(AAA/JPY)}{X(BBB/JPY)} $$で計算できる。東京金融取引所のデータは1枚当たりのスワップポイントであるため、単位は適宜調整して計算する必要があることに注意する。
最後の手段
為替レートの引値や日中平均値のような値は各国の中央銀行や国際機関で公表しているところが大抵存在する。この場合、始値=前日引値、高値=max{前日引値,当日引値},安値=min{前日引値,当日引値}と置けば、4本足のデータを作ることができるだろう。高値や安値を利用してるテクニカル分析はそれほど多くないし、利用していてもさほどの重要性を担っていないことが大半であるため、これで十分かもしれない。取引できない通貨の為替レートなど眺めていても意味がないかもしれないが、理論的な考察の役に立つかもしれないので適当に見れるようにはしようと考えている。