閑話休題:資産運用会社について

疑問

 資産運用会社は資産運用というサービスを請け負い(代行する)、それに対する対価として手数料(受託手数料)を受け取るのいうのがビジネスモデルである。これはヘッジファンドのような限られた顧客を相手にする運用会社でも本質は変わらないだろう。投資に関して素人の個人が資産運用会社に資産運用を委託して、結果として手数料を支払うということであれば、上記の説明でよいかもしれない。ただ多くの場合、投資信託が設定している手数料というのは安くはない印象があり、個人投資家が積極的に使うかといわれると微妙な気もするのである。

 そのため、資産運用会社やヘッジファンド(ベンチャーキャピタルやバイアウトファンドも含む。)に資金を預けるのは銀行や保険会社、政府系機関(大学や医療機関なども含む)といった機関投資家、あるいは、個人であっても富裕層が大半を占めるのではないかと推測される。このように考えると資産運用会社やヘッジファンドの顧客というのは、どちらかといえば資産運用のプロの人たちと思われる。つまり、資産運用のプロの人たちがなぜ高い手数料を支払ってこれらの機関に資産運用を委託するのか、というところに疑問が生じる。

仮説

 一つの仮説は、これらの資産運用会社やファンドを経由することで株式や債券の所有関係を曖昧にしようとしているのではないか、ということが考えられる。要するに、資産運用会社やヘッジファンドは金融資産の所有を仲介するという意味においての金融仲介機関であり、株式や債券の所有構造をカモフラージュする目的で利用されることを想定しており、それを理由に安くはない手数料が設定されているのかもしれない。一般大衆にも購入できるようにする場合があるのは、そういった意図を隠す目的であり、本来は内輪の人しか投資することができないファンドというのも少なくないのではないかと推測される。

 これは、ベンチャーキャピタルやバイアウトファンドを考えるとより理解しやすいかもしれない。ベンチャーキャピタルはリスクの高い投資を手掛けるために高い手数料が設定されていることが普通である。ただ、これは出資者にとってリスクが高いという意味であり、それを理由に手数料を高くする理由はないように思える。逆説的であるけど、出資者が成功する確率が高い(もしくは確実な)投資案件を持っているが、それを直接実行することに問題がある場合(例えば、投資対象の企業の直接的な顧客であったり、あるいは、自社のマネジメントを目的として競争相手を育てる場合)、ベンチャーキャピタルを間に挟むことで、所有構造をある程度隠してその投資を実行できることになるかもしれない。

  例えば、出資者が投資対象の企業の直接的な顧客である場合、投資対象の企業が成功するかどうかはそもそも出資者自体が決定することができてしまうため、投資としてのリスクが全くない案件になる。ただ、それを不確実性の中から発掘された成功例として見せかけることで、他の投資家から追加的なキャピタルゲインを得ることができるかもしれない。それを演出するためのツールとしてベンチャーキャピタルを利用する、ということである。

 ベンチャーキャピタルは一般に自身も出資を行うため、本来であれば業績にかなりの不確実性を伴うはずであるが、しばしば何かの製造業かよと思うほど毎年の売上高が安定している企業も存在する。そういったベンチャーキャピタルはリスクを取って何かをやっているように見せかけているだけで、実質的には所有を仲介して仲介手数料を得ているだけなのかもしれない(このブログの好物の中抜きである)。ディーラーやファンドマネージャー同様に、凄腕のベンチャーキャピタリストというのもなぜベンチャーキャピタルの従業員として勤めるのか謎の存在であるが、現実にはベンチャーキャピタルの成功というのも企業間の関係性に依存しており、ベンチャーキャピタリスト個人としての能力などベンチャーキャピタルの業績にはあまり関係がないということなのかもしれない。

情報の価値と八百長

 こういったことは未上場の企業だからできると思うかもしれないが、上場企業においても内部の情報をある程度事前に知っていたり(自社が顧客なら情報を作り出すこともできる)、そもそも投資対象の企業の業績をコントロールできるのであれば、ファンドを経由することで一定のリターンを得ることができるのかもしれない。そういった情報を利益に換金することを仲介するのが資産運用会社の本質である、というのが仮説として考えられる。

 こういったことはギャンブルで例えるのならば八百長みたいなものであるが、ビジネスや投資の世界では八百長が不正であるわけでも違法であるわけでもないのだろう。こういったことをうまくやってのける人たちが優秀なビジネスマンであり投資家であるということなのかもしれない。個人投資家の立場から投資で成功しようと考えるならば、そういった八百長を見抜き(ここが難しいのだろうが)、それに乗っかるという手法を考えた方が良いのかもしれない。

 最後に、日本の株式市場に目を向けると上場企業の株式価値の2割以上は日銀やGPIFなどの政府系機関が保有している。現実には、株式の持ち合いや間接的な保有もあるだろうから、それ以上の割合で保有されていると考えてよいだろう。多くの日本の上場企業の筆頭株主は実は日本国政府であると考えることができ、企業がいかに政府と無縁の存在ではないかということがわかるだろう。こういった所有はETFや投資信託を通じて行われるため、直接的に日銀やGPIF、政府系金融機関が大口株主として認識されることは稀であるが、投資信託を経由して結局政府の意見というのが企業の経済活動に反映されるようにできているのかもしれない。

 ヘッジファンドについても、その多くを所有しているのは機関投資家や政府系機関であると考えることができ、それらの機関が直接的に実行しづらい投資をあたかもあやしい富裕層から資金を集めて行っているかのように見せかけているだけである場合も少なくないと推測される。このように考えると、ヘッジファンドが何か特別な投資の能力(クォンツや伝説のファンドマネージャー)を持っているかといわれると、どうも怪しい気がしてならないのである。邪推である部分も多々あろうが、いくばくかの真実も含まれていると期待した・・・いやしたくないか。