外国為替証拠金取引とポジションのロールオーバー
外国為替証拠金取引は実際には外貨の受け渡しを伴わない取引であるため、例えばUSD/JPYを買ったとしても、それが2営業日後に受け渡しされるわけではない。代わりに、日付をまたいで保有されたポジションをどう扱うかというと、当日のスポット取引であったポジションを、翌営業日のスポット取引に交換するという処理が行われる。このようなポジションの持越しをポジションロールオーバーという。この交換取引は当日から見ると、S/N(スポットネクスト)の為替スワップと等価な取引であり、外為証拠金取引のポジションロールオーバーに適用されるスワップポイントはS/Nのスワップポイントである。
このような理由からスワップポイントは、水曜日(USD/CADは木曜日)に3日分のスワップポイントが付与される。これは水曜日のスポット日が金曜日であり、木曜日のスポット日が月曜日であるために金利の計算期間が3日分になるからである。このように考えると、スワップポイントに適用される金利も厳密にはオーバーナイト金利ではなく、S/Nの金利になる。現実には両者はそれほど差がないため、政策金利( オーバーナイト金利 )差で大体代用できるということである。FX業者がポジションのカバーに使っている取引もS/Nの為替スワップと推測される。
また、若干やっかいな仕様として、スポット日の翌営業日と翌営業日(FXの次の取引日)のスポット日は必ずしも一致しない。いやどっちも3営業日後だろ、ふざけるなと言いたくなるがスポット日の2営業日というのは市場慣習に沿った特殊な計算をするからである。為替取引の営業日は、基本的に通貨ペアの国の休日とニューヨークの休日を参照する。例えば、GBP/JPYの取引であれば、ロンドン、東京、ニューヨークの休日を休日として扱う。このときに、2営業日の計算をする際の最初の1営業日目はニューヨークは休日であっても営業日としてカウントする(ロンドンの翌営業日と東京の翌営業日のうち日付が先の日付を1営業日目にする。)、という市場慣習が存在する。このため、ニューヨークの休日をまたぐと、スポット日の翌営業日と翌営業日のスポット日がずれてしまうということになる。
為替スワップのS/Nの日数計算はスポット日からスポット日の翌営業日だが、ポジションのロールオーバーは当日のスポット日から翌営業日(次の取引日)のスポット日にしたいということで、外国為替証拠金取引におけるスワップポイント付与の日数計算は為替スワップのS/Nの日付計算とずれていることがあるので注意が必要かもしれない。休日を挟むと当日のスポット日と次の取引日(この場合、どこかの都市は休日)のスポット日が一致するということも普通にあるために、スワップポイントが付与されない日もあるということになる。
通貨スワップ
期間が1年を超えるフォワード取引や為替スワップがあまりないと書いたが、金融市場では1年を超える期間の取引では金利を一定の周期で受け渡すのが通常であるためである。この一定周期ごとに金利の交換をする為替スワップのことを通貨スワップ(Cross Currency Swap)という。この取引は、為替レートの差(スワップポイント)ではなく、金利の差で市場価格が表現されており、通貨ベーシススプレッド(Cross Currency Swap Basis)といわれる。
通常は、LiborもしくはOISといわれる金利指標にスプレッドを乗せる価値で表現されていて、JPY OIS – 0.5% vs. USD OISのような形式になる。ここで、-0.5%というのが通貨ベーシススプレッドである。この値は通貨高期待が大きい通貨ほどマイナスの値になり、通貨安期待が大きい通貨ほどプラスになる。金利平価説が成り立つのであれば、0になるべき値である。外国為替証拠金取引をする上では特に意識することもないが、こういった取引が金融市場において珍現象を引き起こす原因なっていることがある。以下では、その一つの例を紹介する。
なぜマイナス利回りの国債が買われるのか
マイナスの利回りの日本国債が買われるという事象は通貨ベーシススプレッドが原因と考えられる。例えば、米国の年金基金、保険会社や債券投資ファンドなどからみると、米国債を買うということと、通貨スワップでUSDを貸し出し、JPYを調達して日本国債を買うということは為替リスクが(ほとんど)ないUSD建ての固定金利を受け取る投資という意味でほぼ等価と考えられる。
後者の利回りは”USDの金利スワップレート-JPYの金利スワップレート-JPYの通貨スワップスプレッド+日本国債の利回り”でほぼ近似できると考えられる。このJPYの通貨スワップスプレッドが円高期待で大きくマイナスで、日本国債のマイナス利回りを補って余りある場合、米国の投資家から見るとマイナス利回りの日本国債は魅力的な投資対象に見えるということである。(もちろん、国内の投資家から見てもポートフォリオとして許容されるならば、外債を売って調達した外貨を通貨スワップで貸し出し、日本国債を買うということができる。)
いやいや、それだったら日本国債買わないでJPYのまま銀行口座に入れておけよ、と思うかもしれない。しかし、大抵の年金基金や保険会社、債券投資ファンドというのは大量の資金を銀行口座に預けておくということに制約があると考えられる。公的な性質を持っている金融機関が投資しないで資金をため込むということはおそらく規制で許されていないか、そうでなくても行政や政治家は怒る可能性が高いだろうし、債券投資ファンドは集めた資金のほとんどを債券に投資する契約になっていることが普通であり、預金のままにしておくということは許されていないのである。
こういった事情からマイナス利回りの国債というのは意外に常態化してしまっている。ある意味で、金利平価説の逆バージョンであり、為替市場がマイナス金利であることを前提に取引されているのだから、金利はマイナスにならなければならない。金利の方が為替市場に合わせるべきだろ、グローバルな為替市場様がローカルな日本の金融市場の金利なんか知るか(笑)、ということである。特に円高期待が高まるときは結構なマイナス利回りになってしまう可能性があるということになる。日銀やらGPIFやらが債券から株式投資にシフトしたのは、こういった事情から日本国債に投資するというのが難しくなったという側面もあるのかもしれない。