外国為替市場と為替レート(その1)

為替レートと取引慣習

 外国為替証拠金取引では、リアルタイムで取引が成立し、即時にポジションや損益反映されるため、為替取引というのは即時に外貨が受け渡されているかのような印象を受ける。外国為替証拠金取引のところで説明したように、これは実際の外国為替取引とは異なるものであり、銀行間における外国為替取引は取引をして実際に銀行口座に振り込まれるまでに一定の期間がある。

 通常は外国為替取引の対象となる通貨を発行する国の休日にニューヨークの休日を加えたカレンダーで2営業日後(いくつかの通貨ペアでは1営業日後であり、個人投資家が扱う通貨ペアではUSD/CADがそれにあたる)が受け渡される日(取引(Trade Date)から2営業日後というのをT+2という。)になる。このような取引をスポット取引(直物レート)といい、その取引の為替レートをスポット為替レート(Spot FX Rate)という。FX取引で日々リアルタイムにみている為替レートというのはこのスポット為替レートである。

フォワード取引と為替スワップ

 取引日から受渡日までの間に一定の期間がある為替取引があり、フォワード取引(為替予約、先物為替、先渡取引など様々な言い方がある。)といわれる。その取引の為替レートをフォワード為替レート(Forward FX Rate)という。フォワード取引にはいくつか定型の期間があり、翌営業日受け渡しをOvernight(O/N)、スポット日の翌営業日をSpot Next(S/N、スポネともいう。)、週(1-4W)、月(1-12M)がある。ないわけではないが、1年を超える期間の取引はあまり行われないようである。通常、フォワード取引は取引日時点で取引の為替レートを決めてしまうこと(決めない場合もある)が多く、スポット為替取引の予約という側面がある。

 スポット取引と反対売買のフォワード取引を同時に行うことがあり、この取引を為替スワップ(FX Swap)という。フォワード取引同様に定型の期間があるが、Overnight(O/N)は今日取引の受け渡しを行い、反対売買を翌営業日に行う取引であり、翌営業日に取引の受け渡しを行い、2営業日後に反対売買を行う取引はTommorow Next(T/N、トムネともいう。)といわれる。それ以外の期間はスポット日に受け渡しを行い、フォワード取引と同様の日付で反対売買を行う。為替スワップでは、この手前の取引と反対売買の取引で為替レートが異なるのが通常であり、この為替レートの差がスワップポイント(FX Swap Point)といわれるものである。基本的に期間が先の取引の為替レートから手前の取引の為替レートを引いた値であり、\(\small X(T) \)を期間\(\small T \)のフォワード為替レート、\(\small S(T) \)をスワップポイントとすると$$\small S(O/N) = X(O/N)-X(Today) \\ \small S(T/N) = X(Spot)-X(O/N) \;\;\; \\ \small S(S/N) = X(S/N)-X(Spot) \quad \\ \small S(1W) = X(1W)-X(Spot) \qquad \\ \small \vdots $$である。

フォワード為替レートとディスカウントファクター

 スポット為替レートとフォワード為替レートが異なる価格であり、その差額がスワップポイントであるので、フォワード為替レートがどう決定されるかがわかれば、スワップポイントがどう決定されるかがわかるだろう。一つの仮説として、どの通貨であろうが資金の貸し出しによる利益が同じであるべきと考えることができる。

 例えば、USDの貸出金利が2%でJPYの貸出金利が0.1%の場合、スポット為替レートとフォワード為替レートが同じならば、JPYで資金を借りてUSDで貸し出せば無限に利益を獲得できることが期待できてしまう(このような取引は裁定取引(arbitrage)といわれる。)。そのため、この金利差を埋める分だけUSD/JPYは円高にならなければならない。今日USDを買って期間\(\small T\)貸し出すのと、JPYで 期間\(\small T\)貸し出して、その後USDを買うのとで現在価値が同じにならなければならないことを意味する。これが等しくなるフォワード為替レートを計算すると$$\small X^{USD/JPY}(T) DF^{JPY}(T) = X^{USD/JPY}(Today) DF^{USD}(T) $$が成り立つ。したがって、フォワード為替レートは$$\small X^{USD/JPY}(T) = X^{USD/JPY}(Today) \frac{DF^{USD}(T)}{DF^{JPY}(T)} \qquad \qquad \qquad \qquad \\ \small \qquad \; = X^{USD/JPY}(Today) \exp\left(\left(r^{JPY}(T)- r^{USD}(T)\right)T\right) $$と計算できる。

 このように将来の為替レートが決定されるべきとする仮説を金利平価説(Interest Rate Parity)という。これについては別途詳細に説明する。それでは、現実のフォワード為替レートやスワップポイントが金利差によって完全に決定するかというとそうでもない。というのも、通貨の価値が上がるか下がるかには不確定性があるし、裁定取引を行う人たちの資金も無限ではないため、市場で取引する人たちの需給や期待がこの価格には反映される。そのため、金利差から計算したスワップポイントと現実の市場のスワップポイントには乖離があり、$$\small \small X^{USD/JPY}(T) = X^{USD/JPY}(Today) \exp\left(\left(r^{JPY}(T)- r^{USD}(T)+\lambda(T)\right)T\right) $$となる。この乖離\( \small \lambda(T) \)のことをリスクプレミアム、あるいは、ヘッジコストという。スワップポイントが単純な金利差では決まらず、まれに高金利の通貨を保有しているにもかかわらずスワップポイントがマイナスになる場合があるのは上記の理由による。つづく・・・