不動産投資とバブル

不動産投資の収益構造

 金融機関やFX業者の利益を生み出す構造は基本的に手数料であり、中抜きと同じ仕組みでできていると以前書いた。FXとあまり関係ないテーマだが、不動産投資というのも本質は同じなんじゃないかという気がしてきたので、ちょっとした仮説を書いてみようと思う。

 まず、不動産投資における利益の源泉であるが、元となる原資や不動産を持たないものと仮定すると、不動産を購入するための借入金に対する金利というのがコスト(当然だが、購入価格が高いほどコストが高くなる。)であり、その不動産を貸し出して得られる賃料が収入となる。もちろん、購入した不動産が値上がり(値下がり)すればキャピタルゲイン(ロス)も得ることができる。したがって、

 不動産投資の利益=賃料収入(+キャピタルゲイン)ー借入金利息

ということになる。

 もし確実に不動産投資が利益を生む(リスクが無い)と仮定するならば、不動産投資家というのは存在し得ないのかもしれない。なぜならば、不動産の借り手は賃貸にして賃料を払うより、直接資金を借り入れて不動産を購入する方が安上がりになるからである。このような状況では、不動産投資家の利益というのは不動産の借り手(非資本家)と金融機関の間に入って、手数料として賃料と借入金利息の差額を中抜きすることであると考えられる。 もちろん、健全な経済状況では不動産価格や賃料には価格変動リスクが存在するため、リスクに見合うだけの対価というのが不動産投資のリターンであるということになるだろう。

不動産投資の利益は誰が払っているのか

 しかし、特殊な状況として、不動産投資家がやっていることが文字通りただの中抜きでしかないという状況は存在する。不動産の需要に対して供給が圧倒的に不足している状況や、一般大衆が不動産購入のために金融機関から低金利で資金の借り入れを行うことができないという状況がそれに当たる。後者は、政府や金融機関、不動産ディベロッパーが結託しており、低金利で借り入れを行うことができるのは不動産ディベロッパーや富裕層のみというパターンも含まれるだろう(政府 ← 金融機関 ← 不動産ディベロッパー ← 不動産投資家 ← 一般大衆という中抜きの構造であり、中国の不動産の活況はこれにあたるかもしれない)。この場合、不動産の貸し手は借り手に対して圧倒的に有利な立場になる。

 不動産の借り手(非資本家)に対して貸し手(資本家)の方が有利な立場にある場合、不動産投資家は不動産をなるべく安く買おうというインセンティブをほとんど持たない。むしろ、より上流な人たちに利益を配分する必要があり、高く買わなければならないということになる。高く買っても賃料をその分上げればよいだけであり、不動産価格が高いか安いかなどどうでもよい話になるからである。ようは、腹が痛むのは不動産の借り手の方であって、いくら高い価格で不動産を買おうと、不動産投資家が特に損をする話ではないということになる。

 このように考えれば、不動産投資の利益というのは本質的に不動産の借り手の余分な負担から成り立っていると考えることができ、そのパイを不動産投資家同士で奪い合っているというのが基本的な市場の構造であろう。不動産の借り手が負担できる金額にはおのずと限界があるだろうから、経済成長の速度以上に不動産価格が上昇し続けると不動産の借り手側の経済状態は年々悪化していくことになる。

 要するに不動産バブルの絶頂期というのは、非資本家層の不動産を持たない人たちは経済的に厳しい状況に追いやられている(賃貸では生活できない、もしくは、我慢できずに家を購入して無理な借金を背負っている)状態であり、これが限界を迎える(これ以上、利益を搾り取ることができない状態になる)とバブルの崩壊ということになる。

不動産バブルとその末期症状

 不動産バブルが末期になると以下のような現象が生じると考えられる。

  1. 賃貸で賃料を払い続けるのが苦しくなるため、一般大衆が金利が高いにもかかわらず、住宅ローンを組んで不動産を購入するようになる。その多くが不動産価格の上昇を当てにしており、所得からの返済がおぼつかない融資である。(サブプライムモーゲージを想定すれば理解しやすいだろう。サブプライムモーゲージの金利は年7~15%程度であることが多かったようである。)
  2. 不動産需要が高いにもかかわらず、賃貸用不動産の空室率が高い状態で推移する。空室率が高いにもかかわらず、賃料にそれが反映されず、高止まりし続ける(一般大衆と不動産投資家の我慢比べになる。)。不動産投資家は賃料を下げると不動産価格の下落につながってしまうため、高い賃料を維持するために空室を空室ではないかのように偽装することもあるのかもしれない。
  3. 既存の賃貸用不動産の実質的な空室率が高い状態であるにもかかわらず、不動産投資家の不動産需要は高い(ように見える)ために、不動産の開発は積極的に行われ、不動産価格は上昇し続ける。不動産会社の多くが需要に応えるため、レバレッジを効かせてバランスシートの資産・負債を増大させるようになる(もしくは、破綻していると気づきながら、引き返せなくなっている)。

このように考えると不動産の価格、需要量や空室率の情報からは不動産バブルを判断することはできないように見える。また、不動産会社の業績はバブル末期に最高潮になるため、不動産会社の業績を判断材料にするのは難しいだろう。わかりやすい現象は1.ということになるかもしれない。一般大衆が不動産賃貸を避け、不動産購入に踏み切るような状況は注意が必要ということだろう。

不動産バブルの崩壊

 典型的には、不動産バブルの崩壊は政府や中央銀行の判断がもたらすものと考えられる。末期症状のような状況が続くと、一部の不動産投資家は返せない借金は踏み倒せばよいだけであり、破綻するとわかっていてもゲームを続行するインセンティブを持つ(もちろん、おいルパン、そろそろ俺はずらかるぜ的に資産だけを外国に持ち逃げしようとする人たちもいる。)。結果として、金融機関(ひいては、政府)が損失を被ることになるからである。

 加えて、不動産バブルで追い詰められた一般大衆の不満というのが政治的な方向に向かうことを恐れるからだろう。また、資本家階層自らが、これ以上一般大衆(非資本家層)から利益を吸い出すことを止めよう、やみくもに不動産を買うのを止めよう、という決断はしないと考えられるからである。バブルは自然に崩壊するものと考えるのは必ずしも正しくなく、人為的な判断によってもたらされるものと考えた方が良いかもしれない。

  一般大衆や不動産投資家に不動産の無理な購入を止めさせるためには、政策金利の急激な上昇や金融機関の融資規制といった手法が典型的には採られる。この過程で、無理な借り入れを積み上げている不動産投資家や不動産会社、節操のない貸出をした金融機関は破産することになるが、政府や中央銀行はこういった人たちを救済するインセンティブをほとんど持たない(政権の維持に役に立たないか、場合によってはむしろ妨げになる下流の人たちの損失をわざわざ負担するだけであるため)。不動産バブルの多くがハードランディングになるのは、ソフトランディングするメリットが政府や中央銀行には無いことに起因するように見える。この過程で救済されたり、事前に逃げ出せるのは、政府にお仲間と認識されている人たちだけであり、リーマンブラザーズはそちら側の人たちではないと判断されたため潰されたのだろう。

 もう一つ邪推すると、結局政府や金融機関、不動産ディベロッパーが結託して行っていることは何なのかというところで、民間家計(不動産投資家、一般大衆)に負債を背負わせるということを目的としている部分もあるのかもしれない。中産階級、労働者階級に返済に一生かかる負債を負わせることで、政治的に政府や支配者階級に歯向かうことができなくなるように仕向けるということである。この場合、民間の債務が限界いっぱいになるまで不動産バブルを放置し、それを崩すときは逃げられないように一気に崩すということになるのかもしれない。

 以上が不動産バブルに関する仮説である。政府や中央銀行が潰すと言い出したバブルはほぼ確実に崩壊すると考えられるため注意が必要であろう。”Don’t Fight the Fed(お上と闘うな)”はどこの市場でも通用する信条であるのかもしれない。

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