なぜそれを問う
購買力平価説に引き続いて金利平価説や資産市場(株価や債券利回り)と為替レートの関係について説明していきたいのだが、これを説明するにはいろいろと前提となる知識が必要となる。その導入として外国為替証拠金取引が本来はどういう取引であるのかという説明をする。具体的には 外国為替証拠金取引では持っているポジションに応じてスワップポイントといわれる利息が支払われたり、徴収されたりする。これがどういう仕組みで決まっているものなのか、意外と知らない人が多いというより、むしろ知らない人の方が多いのではないかと推測している。
通貨の売買取引?
自分で定義しなくても、すでに定義されているだろうから引用しよう。金融庁の説明を引用すると
外国為替証拠金取引は、証拠金を差し入れて、日本円と米ドルなど、2つの国の通貨の為替相場を予測して売買を行う金融商品です。外国為替を英語で“Foreign Exchange”と表すことに由来して、外国為替証拠金取引は、通称、「FX」などと言われます。(以下、外国為替証拠金取引を「FX取引」といいます。)
金融庁のホームページ(https://www.fsa.go.jp/ordinary/iwagai/)から
である。わかりづらいが、通貨そのものの売買というわけではなく、為替相場に連動する何か(金融商品)の売買という定義になるだろうか。しかし、売買しているだけであるのであれば、なぜ利息を払ったり、受け取ったりするのかというのが不明であり、この説明では不十分のように思える。FX業者(もしくは銀行)に預けているのだから利息をもらえて当然と考えるかもしれないが、預けている証拠金に対して利息が支払われるわけではなく、売買しているポジションに対して支払われるのである。
なぜ利息が支払われるのか
このように考えると、この取引はただの通貨の売買ではなく、資金の貸し借りを伴っている取引になっていると考えるべきだろう。具体的に、外国為替証拠金取引でUSD/JPYを1ドル110円で10枚(1100万円相当)買うといった場合、以下の取引の合成と考えられる。
- USD10万ドルを買うための資金をFX業者からJPYで1100万円借り入れる。
- 借り入れた1100万円で10万ドルを購入する。
- 購入した10万ドルをFX業者に貸し出す。
この取引を1ドル111円で反対売買をして清算する場合、
- 10万ドル+ドルの貸し出しに対する利息をFX業者から受け取る。
- 10万ドル+利息を売却してJPYに換金する。1110万円+円転したドルの利息が受取金額になる。
- 借り入れていた資金1100万円を利息を付けてFX業者に返済する。
- 最終的な損益として、値上がり益10万円+円換算したドルの利息-借り入れた円資金の利息を差金として受け取る。
という取引になっていると考えられる。このうち、”円換算したドルの利息-借り入れた円資金の利息額”というのがスワップポイントといわれている金額であると考えられる。以上のように、何となく2.に相当する部分しかないような気分になるが、この取引には1.と3.の取引も含まれているということである。
そもそも通貨を売買しているのか
資金の借入や貸出、通貨の売買をしているかのように書いたが、実はここも正確にはそういった取引を行っていないと推測される。要するに、借入金口座や外貨預金口座のようなものがあって、取引ごとにその口座に借金が発生したり、購入した外貨が振り込まれているかというと、そのようなことはない。そういう取引をしたものと仮定して仮想的なポジションを管理して、最終的な清算時に市場価格の変動分とスワップポイントを差金決済するのみであり、実際にこのような巨額な資金取引や通貨の売買を行っているわけではないということである。このような特定の資産の売買を伴うことなく、その資産の価格を参照して損益のみをやりとりする取引はデリバティブ取引(金融派生商品)といわれる。 外国為替証拠金取引はこの実際の通貨の売買を伴うことなく、あたかもその通貨を売買したかのように損益だけをやり取りする取引であり、デリバティブ取引の1種であるといえる。
通貨の売買と為替スワップを合成したデリバティブ取引
実をいうと、 1.と3.の取引の組み合わせはインターバンク市場(銀行間取引市場)では為替スワップ(FX Swap)といわれるデリバティブ取引に相当している。ある資金取引と別の資金取引を交換する取引はスワップ取引といい、例えば、固定金利の資金取引と変動金利の資金取引を交換する取引を金利スワップ(Interest Rate Swap)という。為替スワップは異なる通貨の短期的な資金取引を交換する取引ということができる。外国為替証拠金取引は為替スワップで調達した資金で通貨を売買している取引と等価になる。
インターバンク市場の為替スワップは返済する期限があらかじめ決まっている取引であり、”円転したドルの利息額-借り入れた円資金の利息額”という金額をあらかじめ決めて取引を行う。この金額は為替スワップの市場価格に相当するものと考えることができ、為替スワップポイント(FX Swap Point)といわれている。この値は大体2つの通貨の金利差で決定されるものの、正確にはそれ以外の要素も入ってくる値であり、単純な金利差でスワップポイントというものを評価できないことに注意する必要がある。外国為替証拠金取引がどういった仕組みの取引であるかを正確に理解するためには、この為替スワップという取引の仕組みを理解する必要があるということである。これを理解するためには、金融市場において金利というものがどういった扱いをされるものであるかを理解した方が良いだろう。これを次回以降説明していく。