カバーなし金利平価説の検証(2回目)-主要国通貨-
1回目同様に、BISの為替レートと政策金利のデータ(1999/01/01~2021/06/30)を用いて主要な通貨について回帰分析した結果とグラフは以下のとおりである。青線が為替レート、橙線が回帰分析の結果、黄色線はβ=1と置いた場合の推定値、灰色線が金利差を表す。
通貨ペア | α | β | γ |
AUD/USD | -0.5628 | -0.6862 | 6.1302 |
USD/CAD | 0.2581 | -1.3665 | 3.1840 |
USD/CHF | 0.4772 | 2.4438 | 2.9320 |
EUR/USD | 0.1979 | -0.9641 | 2.7958 |
GBP/USD | 0.4002 | -0.0799 | 6.0148 |
USD/JPY | 4.6660 | 0.1675 | 2.4832 |
NZD/USD | -0.7466 | -0.8476 | 4.1813 |
USD/NOK | 1.9949 | -0.1210 | 1.4982 |
USD/SEK | 2.0297 | -2.0112 | 2.3219 |
USD/DKK | 1.8171 | -1.7895 | 1.0196 |
いずれの通貨も政策金利差にいくばくかの短期的な反応をするように修正されていることがわかる。ただし、金利平価説の成立の可否に関しては1回目とほぼ同様の結論であると考えられるだろう。また金利と為替レートでどちらが先に動くかということだが、政策金利→為替レートという経路ももちろんあるし、為替レートが政策金利の動きを予測して先に動いてしまっていることもあるように見える。おそらく、中央銀行は市場の動きを読みながら金融政策を考えるし、反対に市場側も中央銀行の動きを読みながら取引をしている部分もあるという点で、一貫した傾向を見出すことは難しいように見える。ただし、主要国通貨に関しては短期的には金利が高くなるということはその国の通貨高になる方向に反応しやすい(\(\small \gamma>0 \))というところは、ほぼ言えると考えられる。
カバーなし金利平価説の検証(2回目)-エマージング通貨-
エマージング通貨について回帰分析した結果とグラフは以下のとおりである。1回目同様に、 BRL,MXN,PLN,RUB,TRYは通貨危機時のデータが異常値に見えるので、2003年以降のデータを用いてフィッティングしている。
通貨ペア | α | β | γ |
USD/ZAR | 1.4566 | 0.7147 | -3.5144 |
USD/MXN | 1.7442 | 0.9464 | -2.6544 |
USD/BRL | 0.0675 | 0.4735 | -2.0587 |
USD/PLN | 0.8961 | 0.5063 | 0.3505 |
USD/RUB | 1.3920 | 0.9149 | -4.2763 |
USD/TRY | -1.3323 | 1.1868 | -3.3704 |
USD/HKD | 2.0468 | 0.0176 | -0.2841 |
USD/CNY | 2.1674 | -0.2693 | 2.7569 |
USD/KRW | 7.0235 | -0.0794 | -1.1673 |
USD/INR | 3.7025 | 0.5003 | 0.0050 |
USD/IDR | 9.0004 | 0.6334 | -0.3583 |
主要国通貨と異なるのは、金利差に対して動く方向性がはっきりしないことだろう。USDが利下げをする時というのは大抵不況時であり、エマージング通貨が売られて安くなる時期に一致する。エマージング国も利下げをするのだが、通貨安にならないようにUSDほど利下げしないのが通常であり、結果として金利差に関する感応度がマイナスになる通貨もある。また、エマージング国というのは対外債務が多かったり、自国民の自国通貨に対する信認度が低かったりするために、通貨安というのを好まない傾向がある。そのため、通貨安傾向になると、通貨の価値を守るため利上げするために、\(\small \gamma < 0 \)となることがあると考えられる。1回目同様に、全般的にカバーなしの金利平価説というものは成り立っていないということは言えると考えられる。