金利平価説
フォワード為替レートとスポット為替レートの関係が$$\small X^{1st/2nd}(T) = X^{1st/2nd}(0) \exp((r^{2nd}(T)-r^{1st}(T))T) $$ リスクプレミアムが存在する場合は $$\small X^{1st/2nd}(T) = X^{1st/2nd}(0) \exp((r^{2nd}(T)-r^{1st}(T)+\lambda(T))T) $$ と書けることを以前示した通りである。
フォワード為替レートが将来時点\(\small T \)におけるスポット為替レートの期待値であるとする仮説を金利平価説(Interest Rate Parity Theory)という。特に、リスクプレミアムやヘッジコストが0として成り立つとする仮説をカバーなし金利平価説 (UIP:Uncovered Interest Rate Parity) 、実際のリスクプレミアムやヘッジコストを含んだフォワード為替レートで成り立つとする仮説をカバー付き金利平価説(CIP:Covered Interest Rate Parity)という。
金利=インフレ率が成り立ち、かつ、リスクプレミアムが0であるならば、金利平価説が算出する将来の為替レートは購買力平価説と一致するものとなる。要するに、金利が高い国ほどインフレ率も高いはずだから、高金利通貨に投資しようが低金利通貨に投資しようが得られる期待リターンは変わらない、という仮説になる。直感的には、違和感がない仮説であるし、成り立ちそうなものであるが、現実には金利平価説が成り立つと信じえるデータはほとんど存在しておらず、むしろ逆の傾向があるのではないか、ということを言われることもある。
金利と金融政策
というのも、インフレ率と比較して金利(特に短期金利)は人為的な操作が可能であり、短期金融市場(マネーマーケット)の金利というのは各国の中央銀行が決定していると考えてよい。”Don’t Fight the Fed(中央銀行と闘うな)”はマネーマーケットのディーラーの人たちにとっては最も重要な信条であろうし、それが嫌なら他の市場に行けという話だろうと思う。中央銀行というと物価水準を政策目標とする場合が多いが、間接的には為替レートを政策目標にしていることも少なくない。シンガポールなど小国の中央銀行は政策目標として直接的に為替レートを掲げる場合もある。
このように考えると、金利が為替レートを決定するというより、為替レートの動きに合わせてその動きを抑制するように中央銀行が金利を決定するという傾向が生じると考えられる。結果として、為替レートの動きに合わせて事後的に金利が追従するという場合もあり、金利と為替レートの動きに明確な連動性は認められない、というのが現実であろうと考えられる。また、いかに金利差があっても通貨の流通量というのは各国の経済規模に依存しており、各通貨の取引量や発行残高が大きく異なるため、金利裁定を行うにも限界があるだろうと考えられる。この辺りは実際のデータを見て確認していこう。
キャリートレード
前営業日と比較して、金利や為替レートなどが全く変化しなかった場合に生じる金融取引の損益のことをキャリー(Carry)という。オプション取引等ではセータ(Theta)ともいわれる。為替であれば、高金利通貨をロング、もしくは、低金利通貨をショートして為替レートが全く変化しなければ、スワップポイントによる収益が得られることになり、キャリーがプラスになる。金利では、順イールドのイールドカーブの下では短期金利で資金を調達し、長期金利で運用していれば キャリーがプラスになる。このように、キャリーがプラスとなるようにポジション取りを行うことはキャリートレードといわれる。
金利平価説や効率的市場仮説の下では、このような取引が超過的な利益をもたらすことはないと考えられるが、現実にはこういった取引は利益を生み出す傾向があるようにみえる。ここ10年ぐらいを振り返っても、高金利通貨(AUD,NZD,ZAR)の買いというのは、値動きの損益とスワップポイントの損益をネットするとプラスである傾向がある(TRYのような逆パターンももちろんあるが)し、金利裁定が成り立つならばイールドカーブはフラットな形状に収束しなければいけないのだが、イールドカーブがフラットな形状に収束すると信じる人はほとんどいないだろう。
このように考えると、むしろ金利が上がるほど投資家に買われ、金利が下がるほど投資家に売られるという形で金利平価説の逆方向への動きが生じる可能性も考えられる。一般には、金利平価説同様にこれも成り立つと信じえるデータはほとんど存在しないのだが、一部高金利通貨ではこういった傾向が観測されることもあるかもしれない。これも実際のデータを見て確認していこう。